スナガニ調査ハンドブック
制作
海洋生物多様性保全関係機関ネットワーク
公益財団法人 環日本海環境協力センター
兵庫県立大学(兵庫県立人と自然の博物館) 和田年史
スナガニ(Ocypode stimpsoni)とは?
スナガニは砂浜の波打ち際付近に巣穴を作って生息する、甲らの幅(甲幅)が3㎝ほどのカニです。砂浜に行くと、直径1~3㎝ほどの巣穴とその周辺に砂団子と呼ばれる小さな砂粒がよく見られます。夜行性のカニで、昼間は巣穴に入っていることが多く、おもに夜間に餌を食べるために砂浜を動き回ります。6月から9月がおもな活動時期で、冬期は砂の中で冬眠します。
日本沿岸では北海道南部以南に広く分布することが知られていますが、特に日本海側の沿岸域では調査されていない地域も多く、正確な分布・生息状況がわかっていません。
以前は多くの砂浜海岸で数多くのスナガニを観察することができましたが、現在は各地で個体数が減少し、宮崎県・熊本県・長崎県・広島県・兵庫県・愛媛県・山形県・宮城県で絶滅危惧種に指定されています。
なぜ、スナガニが減ってきているのか?
スナガニはおもに砂浜海岸の波打ち際に生息します。しかし、近年、波の作用によって陸地が削り取られる“海岸侵食”によって砂浜が消失したり、劣化した砂浜を人為的に養浜(砂を入れて砂浜を造成すること)したりすることによって、スナガニが生息しやすい砂浜環境が年々減少しています。
新たな問題
近年、地球温暖化の影響で海水温が上昇しています。それにより、従来、日本(本州)には生息していなかった南方系のスナガニ類(ツノメガニ・ミナミスナガニ・ナンヨウスナガニ等)の分布域が北上しています。その結果、各地で在来のスナガニとの種間競争が起こり、スナガニの生息が脅かされています。
スナガニ調査の目的
本調査の目的は、多くの方々と協力して、国内におけるスナガニの分布・生息状況を把握し、各地域の砂浜環境の健全性だけではなく、地球温暖化の影響による分布域の変化や南方系種の影響を明らかにすることです。
調査の方法
本調査では、まず各砂浜海岸におけるスナガニ(の巣穴)の有無を確認します。その後、巣穴の生息密度を測定し、巣穴からスナガニを掘り取って、甲幅の測定、オス・メスの判別、左右の大きなハサミの判別を行います。調査の流れは以下のとおりです。
①調査区画の設定
砂浜の状況に合わせて、調査区画を設定します。
波打ち際に沿って、幅数m、長さ数十mの区画を設定します(右の写真のとおり)。
②調査区画内の巣穴の計数
区画内の巣穴の数をカウントし、単位面積当たりの巣穴の数を算出します。巣穴は開口部の直径が1㎝以上のものを対象とします。
③スナガニの掘り取り
巣穴を手で掘ってスナガニを採集しますが、最初に巣穴の中に乾いた白い砂を入れることで、巣穴がどの方向に続いているかがわかります。10~30cmほど掘り進めると、巣穴の中からスナガニが出てきます。
④スナガニの観察
スナガニ調査の活用方法
砂浜でのスナガニ調査を、野外観察会を兼ねて、子供たちと一緒に実施してみてはいかがでしょうか。
海水浴に行っても、普段はあまり気にしない砂浜海岸で、実際に砂をほってスナガニを捕まえることは、子供たちにとっても新たな体験です。新しい環境教育のプログラムとしても活用いただけます。
また、この調査を通じて、海の生きものの魅力やその多様性、そして生息環境の保全の重要性について学び、地域の取り組みの活性化につなげていただけますと幸いです。
海洋生物多様性保全関係機関ネットワークとは?
日本海に面する各地で海に関する環境教育や調査・研究に取り組む機関間の情報共有や連携の促進を通じて、日本海全体の活動を活性化することを目的に設置されたネットワークです。ネットワークへの参加協力機関・協力者は以下のとおりです。
- 魚津水族館(富山県)
- 海響館(山口県)
- 公益財団法人環日本海環境協力センター(富山県)(幹事)
- のと海洋ふれあいセンター(石川県)
- 萩博物館(山口県)
- 福井県海浜自然センター(福井県)
- むつ市海と森ふれあい体験館(青森県)
- 山口県水産研究センター(山口県)
- 蘭越町貝の館(北海道)
- 島根大学 汽水域研究センター 原口展子博士
- 兵庫県立大学/兵庫県立人と自然の博物館 和田年史博士
本ネットワークへの参加をご希望の際は、環日本海環境協力センターにご連絡ください。皆さんのご協力をお待ちしております。
本調査に関する問合せ先
公益財団法人環日本海環境協力センター
担当 吉田
Tel:076₋445-1571